人事制度は経営の仕組みと連動させて初めて機能する
経営と人事制度の一貫性を持たせる
●問題点と課題の確認
人事制度の目的は、次に示した経営レベルのサイクルを実現することです。
・人事制度によって、社員に求めるものを明確にする
↓
・社員に求めるものができるようになるように、社員が成長する
↓
・社員に求めるものを実行・達成することで業績が向上し、会社が成長する
本稿は、冒頭にあるように、人事制度の目的を「社員と会社の成長を後押しし、経営成果と業績向上につながる会社のエンジン」ととすると定義しています。そして、その目的を目指した人事制度を【成長実現型人事制度】と呼んでいます。また、上述した経営レベルのサイクルが実現できているかを考えると、多くの会社では次の2つの問題点が生じています。
・問題点1:人事制度の【制度内容】が、社員の成長や業績向上、会社成長にリンクするものになっていない
・問題点2:人事制度が、社員の成長や業績向上、会社成長をサポートする【運用】ができていない
制度設計段階の問題点は、「制度そのものが、外からの借りモノで作られており、会社の成長というゴールとつながっていない」ことです。
運用段階の問題点は、「制度ができたら後は黙っていてもうまく回るという誤解の元、あっという間に形骸化し、成果の出ないまま現場の負荷と不満が高まり会社の元気を奪っていく」ことです。
よって、
・課題1:どのように人事制度を設計すれば社員の成長や業績向上、会社成長につながるのか?
・課題2:どのように運用すれば社員の成長や業績向上、会社成長につながるのか?
この2つの視点で、これからどのように人事制度を作ればよいのかもしくは、今ある人事制度をどのように改革すればよいのかをお伝えしています。
前項までの内容は「課題1」(人事制度の解説)であり、そのポイントが以下の「社員に求める5つのもの」でした。
①経営理念や当社の価値観に基づいた行動を取ってもらいたい
②階層別に求める能力・スキルを習得し、発揮してもらいたい
③役職別のマネジメント上の役割・行動を発揮してもらいたい
④経営計画の実行、課題・問題解決をしてもらいたい
⑤成果・業績目標を達成してもらいたい
この5つの内容を等級制度や評価制度にバランスよく組み込んで人事制度を設計することが「課題1」の解決策です。それでは、今回から「課題2」の解決に進みましょう。
●経営の10の仕組み
できあがった「社員に求める5つのもの」を明示し、等級基準や評価項目に連動させれば、黙っていても社員はそのように動き、業績は上がり会社は成長するのでしょうか?
社員の動きについては、「YESの社員」と「NOの社員」に分かれる結果になるでしょう。そして、業績については「NO」です。
業績を向上させ会社を成長させるためには、社員に求めるだけでなく、会社としての取り組みも必要になります。この取り組みを、「自社の理念や戦略を具現化し、会社を成長させるための経営の10の仕組み」としてまとめ、さらにそれを【社員に求める5つのもの】にリンクさせたのが図1です。
そして、この「図1 経営~人事の一貫性を持たせた状態」とは、
・会社として、「会社を成長させるための経営の10の仕組み」を確立し、運用している
・会社として、「社員に求める5つのもの」を明確化し、人事制度(評価・報酬・教育)に連動させている
・社員が「社員に求める5つのもの」を実行することで、「会社を成長させるための経営の10の仕組み」に参画している
以上、3つの条件を満たした状態です。この一貫性が「社員の成長と会社の成長を両立させるための方程式」であり、会社の成長を加速化させます。
さて、貴社は、この方程式ができているでしょうか?
「社員に求める5つのものを明確化し、人事制度(評価・報酬・教育)に連動させている」については、第1~3回で解説してきましたので、今回は「会社を成長させるための経営の10の仕組みを作り、運用している」について考察してみましょう。
経営の10の仕組みを評価するチェックシート
「会社の成長を実現させるための経営の10の仕組み」について、10の視点それぞれについて、図2のチェックシートで点数付けをしてみましょう。
1つ1つの視点について4点、5点のレベルに到達していないようであれば、そのギャップを埋める必要があります。弊社の「組織診断サービス」もこれらの視点で評価をしますが、10の仕組みの平均点が1~2点台となることも珍しくなく、平均4点以上の評価の中小企業は稀なケースです。
それぞれの仕組みの効果を最大化させるためには、ただ静的に存在しているだけではなく、動的に有機的に連動させ「活きたものになっているか」がポイントです。
風土作りとPDCAマネジメントの習慣化
●まず、手をつけるポイント
では、これら経営の10の仕組みを確立し、連動させ、レベルアップを図っていくにはどこから手をつけるべきでしょうか? 弊社がコンサルティングサポートさせていただく際、会社によって課題は様々なのですが最初に手をつける箇所はほぼ決まっています。
実は、経営学の教科書にあるように、オーソドックスに上から順番で「経営理念・ビジョン」から手をつけても効果は薄く、時間も非常にかかります。
答えは、図1に示した⑤~⑦を同時並行で進めることです。
⑤組織の一体感を創り、自発的に動く風土、問題解決型の風土を創る!
⑥組織・個人の求める成果を明確化し、達成のための行動を計画する!
⑦成果・業績の測定と行動実行度の確認、フォロー、検証を行う!
その理由は、成果や業績に即効性のある取り組みが、この部分だからです。人事制度(図1⑧~⑩)が機能するための前提条件は2つあります。
※以下、文中の丸付き数字は図1内の丸付き数字を示しています
1つ目は、風土・信頼関係作り、組織の一体感作りができているかどうか(⑤)です。
2つ目は、PDCAのマネジメントサイクルが組織として習慣化されているかどうか(⑥⑦)です。
つまり、⑤~⑦の仕組みが回らない状態では「会社の成果・業績」は上がらず、「会社の成長」もありません。
⑤「風土・信頼関係作り、組織の一体感作り」ができていない
一体感や信頼感がない風土の中、自発的に動けずやらされ感を持った社員の集合体では、いくら良い戦略や計画、仕組みがあっても、それを実行するに至らず業績は向上しません。
⑥⑦「PDCAのマネジメントサイクルが組織として習慣化」されていない
いくら良い風土ができあがっても、計画立案~フォローの実施というPDCAサイクルを愚直に回さなければ業績は向上しません。
このどちらも必要不可欠な前提です。
●2つの運用案
次に、「A」と「B」どちらのケースが良いかを考察します。
「A」:⑤~⑦の仕組みが回っていない前提で、人事制度(⑧~⑩)を運用する
まずは、評価制度を運用させることが先決であり、一体感のある風土作りやPDCAマネジメントはできておらず、業績向上は必ずしも実現できていない。しかし、社員の「成果が出た・行動した」「成果が出なかった・行動しなかった」は正しく公正に評価され、報酬に差が付く。
「B」:⑤~⑦の仕組みが回っている前提で、人事制度(⑧~⑩)を運用する
一体感のある風土作りができており、PDCAが回り、社員全員が求められる5つのものに沿って動いている。業績向上や会社成長が実現し人件費のパイが増える。社員全員の「成果が出た・行動した」が評価され、全員の報酬が増える。
多くの会社で実施しているのは「A」です。人事制度の目的が「正しく評価し、査定機能を果たす」であるならば、⑤~⑦に取り組む必要はないでしょう。
しかし、人事制度の目的が「社員の成長を後押しし、業績向上につながる会社のエンジンとして機能させる」ということであれば、「B」のように業績向上につながる仕組みを動かし、先に成果を生み出す必要があります。
「人事制度」と「経営計画やPDCA、風土作り」は別のレベルの経営課題として捉えられがちですが、本来、動的に効果を生むためには経営と人事を連動させる必要があるのです。
経営と人事の一貫性を取り、実際の成果につなげるにはそれなりの時間が必要です。評価制度という「箱モノ」を作るだけなら2~3カ月間でできますが、会社の状況によっては人事評価制度を作り運用できる状態になり、成果が上がるまで1~2年程度かかることもあります。その前提に立ち、中期的な計画として人事制度の構築と見直しを進めましょう。
以上、人事評価制度を機能させるための組織の前提条件として必要な「会社を成長させるための経営の10の仕組み」と、その中でも特に重要な、「風土・信頼関係作り、組織の一体感作り」「PDCAマネジメントの習慣化」を紹介しました。評価制度の運用には、まさに経営力・組織力が問われます。つまり、小手先の運用スキル・運用手法ではなく、経営力・組織力を伴わなければ成果・効果は出ないのです。