人材が育つことで成長する会社のつくり方

業績向上と会社成長の実現のための社員教育・人財育成の方程式

社員教育・人財育成の方程式7つのステップ

 中小企業における社員教育・人財育成には、「目的なしの単発教育」「気づいたときに行う思いつき教育」「学んで終わりのやりっぱなし教育」の、3つの問題点が生じがちです。
 これからは、この中途半端で非効率的な人財育成から脱却して「社員に求めるものを明らかにして、その発揮度合い・行動度合い・達成度合いを評価し、求めるものと現状のギャップを埋めるための教育を行い、実践と継続を促し、業績向上と会社の成長を実現させる」サイクルを、人財育成の本質と考え、

①研修やセミナーへの参加が、学んで終わりの一過性の個人学習ではなく、本質的な社員の成長につながる

②社員の成長が、個人の成長に留まらずに、実際に会社の業績向上や組織成長につながる

ような社員教育・人財育成の方程式を確立する必要があります。

 具体的には図1の通りです。この0~6までの7つのステップに沿って解説していきましょう。

教育体系2-図1

●ステップ0 社員に求めるものの明確化

①経営理念や当社の価値観に基づいた行動を取ってもらいたい
②階層別に求める能力・スキルを習得し、発揮してもらいたい
③役職別のマネジメント上の役割・行動を発揮してもらいたい
④経営計画の実行、課題・問題解決をしてもらいたい
⑤成果・業績目標を達成してもらいたい

 これまでに本連載でお伝えしてきたように、社員に求めるものの明確化は人事制度の根幹です。教育体系を作るための前提として、ステップ0と位置付けています。

●ステップ1 求めるものを習得する手段(OJT、OFF-JT)を体系化する

 社員に求める5つのものそれぞれを習得する手段を、OJT(上司や先輩による教育などの職場内教育)とOFF-JT(研修や勉強会などの職場外教育)に分けて検討します。
 図2のように、「社員に求めるもの」「人事評価制度」「教育制度」を連動させて紐付けるのが「体系的」であるということです。

教育体系2-図2

●ステップ2 教育・研修内容を決める

 先に挙げた教育体系の一つひとつについて、具体的な教育内容を決めます。

 ここでは、「期待する社員像」と「階層別に求める能力・スキル」の教育内容の事例を紹介します。

①期待する社員像
 経営理念や価値観に基づいた行動ですから、一度教育すれば身に付くというものではなく、反復しての教育が必要です。次のように浸透策と教育を織り交ぜて行動の再現性を高めます。

1)入社時
・期待する社員像の目的、位置付け、内容の研修

2)毎日
・朝礼での活用:唱和、期待する社員像の成功事例の発表、リーダーのフィードバック
・OJT指導(日々の指導での活用)

3)週間
・週1回の定例会議でリーダーがバリューガイド(各項目の解説、成功・失敗事例のまとめ)に基づき、期待する社員像を解説
・グループでシェア&気付きの発表

4)月間
・月報で特定の項目を選び、目標設定し、自己評価
・上司のフィードバック

5)年間
・360度評価(4月/10月)
 半年に一度の360度評価(多面評価)
・期待する社員像研修
 バリューガイドを使用して研修+ディスカッション

②階層別に求める能力・スキル

 階層別研修・専門スキル研修などのOFF-JTの研修が主です。必須研修と任意研修を区分けした上で、それぞれの社内研修のスケジューリングや外部研修先のリストアップをします。

1)必須研修
 新入社員研修、中堅社員研修、管理職研修などの階層別研修は特定の階層に一律で実施する。

2)任意研修
 ヒューマンスキル(コミュニケーション、意識変革など)、ビジネススキル(ロジカルシンキング、プレゼンテーションなど)、マネジメントスキル(部下育成、コーチングなど)は、個人別の課題に合わせて任意選択で受講する。

 その他の項目についても、同様に具体的な教育内容を決めていきます。

●ステップ3 個人別にあるべき姿と現状のギャップを把握して、教育計画を立てる

 社員に求めるものに対しての現状の評価である、「人事評価結果」「要件基準書での格付け評価」「スキルマップでのスキル評価」などを踏まえて、個人別のあるべき姿と現状のギャップを把握します。
 そのギャップを埋めるために、ステップ2で決めた教育内容の中から選択し、OJT、OFF-JTそれぞれの計画を立てます。

●ステップ4 教育研修の実行

 教育や研修の実行段階に移っても、計画通りに進まないことがあります。その原因のほとんどは次の3つに集約されます。

①経営陣・幹部が本気になっていない
 教育研修の重要性の認識が低いのであれば、これまでの本連載内容を理解いただくのが近道です。つまり、手段ありきの教育ではなく、業績向上と会社成長が目的の教育であるという認識を共有しましょう。

②現場を巻き込めていない
 目的・活用法の告知や説明会開催などの丁寧な運用を行い、また、研修履歴を昇格基準に盛り込み、人材育成への取り組みを人事評価の対象とするなどの適切な強制力を設けることも必要です。

③運用の仕組みを決めていない
 現場で生じる疑問を解消するための、研修活用フロー・ルールを掲載したガイドブックを作成します。また、教育企画責任者を明確にして、計画通りの実行・効果ができているのかをモニタリングし教育の仕組みをブラッシュアップします。

●ステップ5 学びの教訓化と実行を促す

 研修や教育を受けても、それを実践し習慣化しないと研修や教育の効果があったとは言えません。実践と習慣化を促すための受講前後の取り組みは次の通りです。

①受講前
 研修受講前に、受講目的・問題意識・期待成果を上司とすり合わせます。漫然と受講するのではなく、問題意識を明確にしてアンテナを立てておくことで、それに関連した情報を拾い出しやすくなります。
 受講後には、受講目的・問題意識・期待成果に対しての説明責任を果たします。

②受講後

1)「研修報告書兼フォローシート」を記入し、上司と共有する
 内容は次の通りです。
・学び、気付きのまとめ・要点化
・自分を振り返ることでの教訓化
・すぐにできる具体的な行動宣言(期限付きで)
・フォローのタイミング決定(1~3カ月後)

2)上司は、実践機会を提供しながら実践のフォローを行う
 先に決めたフォローのタイミングで、宣言内容の結果評価を行い、さらなる教訓化を行う

※解説:「教訓化」について
 我々は、日々仕事において様々な体験をして、経験を積みます。あるいは、人の話を聴く、本を読む、研修を受けるといった「インプット」もある種の体験と言えます。しかし、「経験のしっぱなし」や「研修の受けっぱなし」では、残念ながら成長することはできません。

・営業において、受注できたかどうかの結果だけにとらわれる人
・研修を受けてきて、翌日くらいは変わったように見えるが、次の日には元に戻ってしまっている人
・何度教えても同じミスを繰り返す人

はこのパターンです。

 成長する人は「経験からの学び」として、次のステップを踏みます。

①経験・研修
②振り返り・内省・気付き
③自分なりの教訓化
④新たな場面での適用・応用

 ある新人営業マンの成長事例を紹介します。社長の営業に同行するという経験を通じてどうやって成長するかを、ステップを追って見てみましょう。

①経験・研修
・社長に営業同行したら、現場でいきなり「じゃあ、今日は君から提案してくれ」と振られた
・しどろもどろになりながらプレゼンを終えた
・何とか受注できた

 ここで、「事前に言ってくれれば準備をしたのになぜ言ってくれないのだろう。まあ、無事に受注できたからいいか」で終わってしまう人は、せっかくの体験を「経験のしっぱなし」として成長できない人です。

②振り返り・内省・気付き
1)【経験・体験の振り返り】
・しどろもどろになりながらプレゼンを終えた
・何とか受注できた

2)【成功要因・ 失敗要因の言語化】
・「でも、当社のお得意様だし、社長のフォローがあったからだろう」
・「どうしてうまくプレゼンできなかったのだろう?」
・「そもそも、どうせ社長がやると思っていて、自分は全く準備してなかったから当たり前だな」
・「指示されたことだけやっているだけだ。そうか、これではダメだ」

③自分なりの教訓化
 経験や体験からの学びを今後も使える知恵に加工して、自分なりの教訓=【すべき集&べからず集】として蓄積する
【教訓1】いつ振られてもいいように、どんな時でもしっかり事前の準備をしておこう
【教訓2】もっと積極的に自分から「私にプレゼンをやらせていただけませんか?」と言ってみよう
【教訓3】これは、プレゼン以外のすべての仕事に言えることだな。指示される前に、自分から積極的に動いてみよう。指示待ちでは成長できないし、言われたことだけ取り組むのではやりがいがないから

④新たな場面での適用・応用
 週末に上司との営業同行があるので、【教訓2】を思い出して、「今度のA社の提案書作成とプレゼン、私に任せて頂けませんか?」と上司に要望した。

 翌日、社長から、「今度のこの新たな案件を担当したい人はいますか?」という発表に対して、【教訓3】を思い出して手を挙げた。

 これが、自分なりの教訓を別の場面で応用するイメージです。

 様々な状況や場面において、自分の引き出しにある教訓(すべき集&べからず集)の中から選択し、活用するのです。失敗を繰り返さない人、成果の再現性を高めることができる人、つまり成長できる人とは、教訓の引き出しの数が多く、各場面で適切な教訓を取り出して使うことができる人です。

 以上のように、研修や教育を受けた後に重要なのは、インプットした内容を気付きに変え、今後も使える「教訓」へと加工する一連のステップです。本人自らがこの作業を行うと共に、上司は定期面談などでそれをフォロー・サポートしましょう。

●ステップ6 学びの共有化・横展開方法

 教育を個人の学びや個人の成長に留めずに、実際に会社の業績向上や組織成長につなげるために、朝礼、社内勉強会、チームミーティングなどで、学びをシェア・発表する時間を作ります。

 ある一人が受講した内容を社内で共有・横展開することができれば、その効果は足し算ではなく掛け算となります。また、横展開効果だけではなく、復習の効果や教える者が最も学ぶという効果も見込まれ、相乗効果が生まれます。

 時間は重要度に応じて配分します。2時間の研修を受講した場合、5分間のダイジェストで発表してもよいですし、重要な内容ならば2時間の研修をそのまま再現してもよいでしょう。

 学びを共有・横展開した次は、それを活用して実際の問題解決・課題解決を行います。

 例えば、チームビルディングを学んだならば実際にそれをチームで適用する、ファシリテーションスキルを習得したならば会議の進め方を改善する、ロジカルシンキングを学んだならば現場の不良の原因と解決策をロジックツリーで洗い出すなどです。

 教育や研修受講が「点」であるなら、メンバーと共有して実際の問題を解決していくことが教育や研修を「線」や「面」に広げる効果があります。

まとめ

 以上が、

①研修やセミナーへの参加が、学んで終わりの一過性の個人学習ではなく、本質的な社員の成長につながる

②社員の成長が、個人の成長に留まらずに、実際に会社の業績向上や組織成長につながる

ような社員教育・人財育成の方程式の7つのステップです。

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